2009年7月、日本列島が梅雨明けの暑さに包まれる中、北海道の大雪山系は短い夏山シーズンを迎えていました。
札幌から車で約3時間、旭岳温泉に集まったのは18名の登山愛好家たち。年齢は50代から70代前半、全国各地から参加した中高年登山者たちです。
「大雪山縦走3日間」と銘打たれたこのツアーを企画したのは、東京のアミューズトラベル。
北海道の雄大な自然を満喫できる人気コースとして、毎年多くの参加者を集めていました。参加者たちの表情は期待に満ち溢れ、本州では味わえない北海道の大自然への憧れを隠せません。
ツアーのメインガイドを務めるのは、多田学、32歳。登山ガイド歴7年のベテランで、大雪山系での経験も豊富です。サブガイドには松本仁(61歳)と川角夏江(38歳)が同行し、21名でのパーティー編成となりました。
計画では旭岳から白雲岳、忠別岳を経てトムラウシ山(2141メートル)まで縦走し、最終日にトムラウシ温泉へ下山する3日間の行程。北海道最高峰の旭岳(2291メートル)から始まり、大雪山系の主要な峰々を巡る、まさに憧れのコース。
参加者の多くは登山経験豊富な愛好家で、中には百名山完登を目指す人、海外の山にも挑戦した経験者もいました。
北海道の山は本州とは全く異なる厳しい自然環境を持っています。特に標高2000メートル級でありながら、本州の3000メートル級に匹敵する厳しい気象条件で知られています。
この時期の天気予報は下り坂。前線の通過により、翌日以降は風雨が強まる予報が出ていました。
夏山シーズンの北海道で、まさかこれほどの悲劇が待っているとはこのときは誰も想像していません。
わずか3日後、この和やかな出発風景は一転し、戦後最悪クラスの山岳遭難事故として歴史に刻まれるのです。
8名の尊い命が失われ、日本の登山界に大きな衝撃を与えた「トムラウシ山遭難事故」の始まりでした。

